vol.5  開業医院外来の強み

 20年近く、急性期病院の専門外来を経験した後、開業した。開業医としてはまだ2年弱の経験であるが、患者さんからは「開業してからの外来の方が断然良い。」と喜ば れている。その理由を考えてみた。

1.状態が変化したとき、患者さんはいつでも私に連絡がとれるし受診できる
 私が担当した急性期病院の外来は週に二日、火曜日と金曜日であった。これらの日以外に病状が変化したとき、患者さんの対応はいろいろだった。重篤な病状の変化の際には、私に連絡をせず、直接救急車で来院した。しかし軽微な変化だと自分で判断した場合は、私の診察日が来るまで待ったり、予約が取りにくいとして予定の予約日まで受診を控えたりされていた。我慢に我慢を重ねてからの受診に出会うと「なんではよう連絡せんかったん?」と患者さんを問いつめたりした。しかし外来診察日以外、私が手術をしていることを患者さんは熟知しており、私への連絡を手控えていた。また術者、主治医と心臓血管手術後患者との関係は非常に濃密になることがある。生死を境にした経験を共有するためだと思う。このため、病状に変化があっても、他の医師にかかろうとしない傾向があった。そんな事情も考えず、患者さんにひどいことを言ってしまったと思う。

 開業してからは様相が一変した。私の方も「具合が悪ければ連絡を」と患者さんに伝えていることもあり、いろいろな病状相談の電話が診療時間中もある。「困ったときはいつでも先生に相談できるんで安心できるし、ほんまにありがたい。」といって下さる。
 また、閉院後の夜間の病状変化に対して、私の携帯電話番号を公開し対応している。24時間の呼び出しには応じることができないので、午後10時までは必ず応答すると伝えている。ドコモ携帯ではナンバープラスのサービスがあり、一つの携帯電話で二つの電話番号が使用できる。呼び出し音を変えておくことでプライベートな電話か、患者さんからの電話か判断できる。因みに午後10時以降の病状変化に対しては留守番電話に用件を残すようにしている。10時以降でも気が付いたときには応答しているが、通常は翌朝7時に確認し、返事している。また夜間に医師の診察が必要な場合には、急性期病院を受診するよう勧めている。その際には普段の診療で渡している電子カルテのコピーを持参するよう指示している。宛先自由の紹介状になる。
 無床診療所医師は外来専門医であり、患者さんの病状変化にはいつでも同じ医師が対応する。回診、検査や手術などを抱える急性期病院外来担当医には真似のできない芸当である。

2.検査などでの院内移動距離が短い
 大きな病院では外来、採血、レントゲン検査などが広い場所に点在しているため、特に足腰の悪い患者さんや車椅子の患者さんには大変である。私の所のように小ぶりの診療所では、診察室、看護室、食事相談室、採血室、生理検査室、レントゲン室、待合室、受付、会計、トイレなどがコンパクトに集まっているため、移動に際しての苦痛がないのが助かるとよく言われる。かつて勤務した病院では「患者様や言うて呼ばれるのに、なんでこないあっちこっち、患者の方が動かなあかんのかいなあ?」と言われたことがある。小さくまとまった診療施設は開業医院の強みの一つであると思う。

3.診療時間帯を自由に設定できる有利さ
 公的病院では診療時間が全病院的に決まっており、それを破るわけには行かない。予約制度などが完備していなかった時代には、診察の順番をとろうとして早朝の6時くらいから患者さんが外来に並ぶことがあった。そういった状況の緩和策として、一時期、早朝8時から自分一人で外来診療をしていた時期があった。しかし外来診療開始の足並みを乱すのは問題であると指摘され、中止してしまった。

 開業医院では地域や診療内容の特性によって自由に診療時間を設定できる。勤務医時代、会社勤めをしながら私の外来を受診していた人に「外来受診時に仕事はどうされてますか?」と尋ねた時、「有給休暇をとって来ています。」と返事する患者さんが何人かおられた。このため、開業してからは週に一日だけ夜の8時まで診療することとした。この時間帯には仕事を終えていそいと受診される方が集まっている。受診のために仕事を休まなくてもよいので助かると言って下さる。事情によって外来診療時間を自由に設定できるのは開業医院外来の強みの一つであると思う。

4.まとめ
 かつてはいわゆる総合病院と開業医院との間で患者の引っ張り合いがなされてきた事実がある。しかし病診連携が推進され、急性期診療は急性期病院で、亜急性期、慢性期は開業医院を中心とした病院でという流れが定着しつつある。こういった現状では、各施設の外来が診療内容や診療時間を考慮し、それに応じた形態に変更していく必要がある。

 急性期病院での外来診療の対象として@開業医院からの紹介A特殊又は重篤な疾患患者のFollow upがあげられる。急性期病院ではこういった外来診療に専念すべきであって、慢性期の患者さんを理由もなく、延々と見続けるべきではない。翻って我々開業医院は慢性期の患者さんを慎重にFollow upし、変化があり、急性期診療の必要があれば遅滞なく急性期病院に転送しなければならない。「○○医院にFollow upを頼んでおけば、きちんと見てくれて、異常のある時にはいつでも迅速に連絡をくれる。△△クリニックは手遅れになる前にきちんと送ってくる。」という評判を急性期病院の医師から得なければならないと思う。

 こういった病診連携を推進して行く上で、開業医院の欠点にも目を向けなければならない。@独善に陥りやすいA医学の進歩に取り残され安い、という問題がある。これらに対しては
1)自分の診療に対する患者さんの反応を観察し、疑問があれば対診を仰ぐ
2)医学に対して興味を持ち続け、常に情報収集を行う3)自分の考えを講演や文章の形で発表し、他医の批判を受ける4)定期的に他者による監査を受ける
ということで対処できると考えている。

 急性期病院に比べて、無床診療所では高額な医療機械もなく、大勢のスタッフがいるわけでもない。しかし、「素手の力」での綿密な診療とアクセスの容易さを活かすことで、安心感のある、確実な外来診療を提供していけると思う。

(徳島県医師会報収載)


このページの先頭に戻る