津波と高波・高潮は違う!

今回の東日本大地震で徳島県には大津波警報がでた。大津波警報は予想される津波の高さが3m以上の時に発令される。さて、予想される津波が3mで防潮堤が4mとする。実際に到着した津波が予報通りの3mなら津波の進入を防止できるかといえばそれは無理。(図1)のように、高波や高潮は風によって海水の表面が盛り上がるが、海の深いところでは水の移動はなく、流れは存在しない。高波の時でも海底深いところで海水は動いていない。しかし津波は海水が層状になり全体として陸地に押し寄せてくる。このため防潮堤にあたった津波はその防潮堤が非常に強固で破壊されなかった場合、次々と後ろから押し寄せる海水が防潮堤のために前に進めなくなった分、上に押し上げられ、1.5倍くらいの高さになるとされている。津波の高さが3mなら4.5mくらいの高さになり、4メートルの防潮堤は乗り越えてしまう。そして津波の高さは津波が押し寄せた地形によりさらに変化する。

(図3)のような入り江に津波が進入したときには屈折や反射で津波の高さが高くなり、また岬の先端に津波が押し寄せたときには、深いところを進んできた津波が浅い方に曲がるため、やはり高い津波になる。これらを津波のレンズ効果と呼んでいる。気象庁から予報として出される津波の高さは津波が押し寄せる場所により異なる。

(図2)は今回の地震で徳島県沿岸に達した津波の高さを徳島大学環境防災研究センターが調査したもの。阿南市では3.51メートルに達しているが、浅川漁港では1.64mで済んでいる。浅川漁港の方が高い津波が来そうに思うが、実際はそうではなかった。徳島県沿岸に均等な高さで津波が来るわけではないと知っておく必要がある。

さて、三陸海岸の防潮堤は無惨に破壊されてしまったが、物体が衝突したときの衝撃度を考えてみる。野球でデッドボールを受けたとき、その痛さはピッチャーが投げるボールの速さとボールの重さの積に比例する。これを力積という(質量×速さ)。津波の力積をかんがえてみよう。今回の震災でも宮古市沿岸では時速115Kmという津波の速さが計測された。そして質量、つまり海水の重さはどのくらいになるだろうか?海の彼方から海水が全体として陸地に押し寄せてくる。そのときその質量は天文学的なものになる。これを考えると巨大地震の際の津波を防潮堤で防ごうとしても無理なことがわかる。
このような津波に対しては「逃げるが勝ち」が最も正しい対策になる。今回の震災で『津波てんでんこ』という言葉が知られるようになった。「てんでん」とは「てんでに」とか「てんでんばらばらに」という言葉で、それに東北地方の表現方法で語尾に「こ」がくっついて「てんでんこ」になった。「まっこ(馬)」「べごっこ(牛)」「あねっこ(姉)」といった使われ方の「こ」と同じである。
今回、大津波襲来の前に、介護施設のお年寄り助けた中学生の話があったが、逆に家族を助けようとして津波にのまれたという話もたくさんあった。住民保護を職務とする人は別にして、津波の時はお互いに問わず、語らずの了解の上で、親でも子でもてんでんばらばらに、一分、一秒でも早く、しかも急いで速く逃げようということを表現したものがこの『津波てんでんこ』である。自分勝手のような響きもあるが、一人でも生き残ることで一族共倒れ、一家断絶を防ごうとしたものといわれる。また津波はそれほどまでに速くて恐ろしいということを教えるものともいわれている。
ちなみに津波の速さは次の式で計算される。

V(Km/時間)=3.6×√9.8×海の深さ(m)

海の深さが1000mの所では時速356Kmで新幹線並、水深20mの所でも時速50Kmの乗用車並のスピードで近づいてくる。かなり速い。津波が視野に入ってから逃げようとしても津波に追いつかれる可能性が高く、大地震に伴って津波警報がでたら、やはり一目散に逃げるが勝ちだ。

【坂東】

引用文献:『津波てんでんこ』山下文男(新日本出版社)『津波から生き残る』津波研究小委員会(土木学会)『津波災害』河田惠昭(岩波新書)徳島新聞