藍色の風 第26号目次
脚気(かっけ・脚気衝心)今昔
一度は『脚気』という言葉を耳にしたことがあると思います。記憶に新しいところではちょうど一年前にテレビで放映されていた「篤姫」の中で徳川家定・徳川家茂・小松帯刀が次々と脚気で命を落としたのをご存知の方もいると思います。『脚気』って足の病気という印象が強いと思いますが、心臓も悪化することもあるのです。そして昔の病気のイメージがありますが、今も存在するのです。私自身この仕事に就き脚気による心不全の方を何人かみて驚いた1人です。では、『脚気』について簡単に説明していきます。
『脚気』とは⇒ビタミンB1欠乏症の一つで、ビタミンB1の欠乏によって心不全と末梢神経障害をきたす疾患です。心不全によって下肢のむくみが、神経障害によって下肢のしびれが起きることから『脚気』の名で呼ばれます。心臓機能の低下・不全(衝心)を併発する事から、脚気衝心とよばれることもあります。
ビタミンB1は糖質(炭水化物)の代謝(エネルギーをつくる)と、神経や心臓の正常な機能に必要不可欠です。
末梢神経障害の症状として、両側かつほぼ対称で下肢優位に発症し、つま先に針で刺されているようなチクチクする痛みがあり、足に焼けるような感覚が生じて夜間特に激しくなり、脚の筋肉に痛み、脱力感、萎縮がみられます。悪化すると腕にも広がります。
心臓の症状としては、心拍出力が増え、心拍数が増加し、血管が拡張して皮膚が温かく湿った感じになります。心臓は高い拍出量を維持できないため、やがて心不全に至り、脚や肺に水が溜まります。その結果血圧が下がり、ショックに至ることもあります。
昔『脚気』は、江戸時代のころから富裕層・将軍の間で玄米から精米されたビタミンB1を含まない白米を食べる習慣が広まりその後庶民にまで広がり、その普及とともに副食を十分にとらないことで大正期までに多くの患者・死亡者を出し結核とならぶ二大国民病といわれました。
今『脚気』は、病気の原因が究明され栄養状態も改善されたことにより一時期姿をひそめていましたが、昭和40年代後半から若者の間で脚気が増えてきました。これは、清涼飲料水・インスタント食品・スナック菓子などのジャンクフードの過剰摂取により再発してきました。発育期にビタミンB1の必要量が多いにもかかわらず、食生活への無関心からの偏食によるビタミンB1の摂取不足が原因とされています。アルコール多飲者にも多くみられ、アルコール分解の際にビタミンB1が消費されることと、偏食もかかわってのことでなります。また高齢化社会によりビタミンB1を含まない高カロリー輸液での発症も問題となっています。
体に必要なビタミンB1は、バランスのよい食事をしていれば十分摂ることができます。その重要性は昔も今も変わることはありません。夏場、激しいスポーツの後は、体の代謝が盛んになりビタミンB1が不足気味となっているので注意して下さい。偏食せず、ビタミンB1を上手に摂って、健康保持・増進に努めましょう。
【臨床検査技師:田中・宮原】
当クリニックの脚気衝心例
61歳男性のXさん。これまで元気に生活されていましたが今年4月に全身が腫れるため急性期病院に入院されました。1ヶ月半の入院治療で腫れは改善しましたが、まだふくらはぎに浮腫の残る状態で退院されました。今後の治療は当クリニックで、として6月に来院されました。紹介状には少し特殊な病名がついていましたが61歳まではお元気であり、その診断には奇異な感じがしました。当クリニックでの心臓超音検査の結果、脚気衝心ではないかと疑われ、ビタミンB1の値を計測すると正常下限ぎりぎりでした。数ヶ月後に再度計測するとビタミンB1値は正常値を下回っていました。入院中の食事ではビタミンが補給されたのでしょうが、退院して元の食生活に戻り、再びビタミン不足になったものと思います。独身男性であり食生活に問題がありそうです。食事に片寄りのある人に発生しやすいことがわかっています。お気をつけ下さい。
【坂東】