藍色の風 第12号目次
どんな運動が良いのでしょうか?
循環器系の病気のあるなしにかかわらず、私達が達者に老いていくために、どのような運動をしていく必要があるのでしょうか? 楽しんだり競ったりするための運動と、上手に長生きするための運動が異なることは明らかです。東京オリンピックに出場した選手の平均寿命が、日本人のそれに比較してかなり短かったと、かつて報ぜられました。
私を含め、循環器系の医師はウォーキングをお勧めしてきました。1日30−40分、週に3回というのが定番です。しかし当クリニックで食事の調整をし、適度の運動を行い、非常にきれいに体重が減少したにもかかわらず、仕事に際して腰痛が出現した方がいました。減量に伴う筋肉量の低下に関して、私が目配りできていなかったのです。こういった経験から、再度運動に関して見直してみました。
「体力をつける」といいます。その体力には二つの側面があります。細菌やウイルスの侵入を防いで、感染症などにかかりにくくしたり、精神的、肉体的負荷があっても体調をきちんと維持できたりする能力も体力です。これを「防衛体力」とよびます。
「防衛体力」とは別に、普段私達が考えている体力が「行動体力」です。スポーツをしたり、仕事や家事をきちんと遂行したりする能力を言います。この「行動体力」を維持するためにはウォーキングだけでは不十分なのです。
「行動体力」には筋力、持久力、瞬発力、柔軟性、平衡性という5つの要素があります。ウォーキング単独では、こういった体力のすべてを維持・強化するには無理があります。加齢に伴う行動体力の低下に対して、ウォーキング以外にどのような運動を行うべきか、考えてみましょう。
健康維持・向上のための運動として、ウォーキングを主体にすることに間違いはありません。しかし、筋力や持久力をつけるためには一定の筋力トレーニングが必要です。バルサルバ効果ということはご存知と思います。きばる労作によって静脈還流量が減少し、血圧変動が生じることを言います。循環器の疾患を持った人には、バルサルバ効果を誘発する筋力トレーニングを勧めてこなかった一面があります。狭心症で発作がある人や心不全状態の人には筋力トレーニングはお勧めできませんが、手術や薬剤などでコントロールできている人には一定の方式で可能です。
また柔軟性の維持も重要な点です。柔軟性が高いということは、体を広く大きな範囲で動かせることを可能にし、できる労作を多様にします。このことが怪我の予防にもつながります。この柔軟性の保持・向上のために必要なのがストレッチです。ストレッチの後には血流が促進されるため、老廃物の除去が促進し、疲労が回復しやすくなります。筋の緊張を和らげ、肩や腰の凝りをほぐす効果もあります。
私達が健康に老いるための体力作りには、ウォーキングを主体にし、柔軟性保持のためのストレッチを行い、筋力や持久力のための筋力トレーニングを加えることが必要です。
毎日新聞に作家、宇野千代さんの言葉が引用されていました。「長生きすると死ぬ時、秋になって、木の葉が木からはらりと舞い落ちるように、ごく自然に何の苦しみもなく死ねるそうですよ。私は苦しんで死にたくないから、一日でも長生きしたいんです。」彼女は98歳で逝去しています。
良い長生きをするためのウォーキング、ストレッチ、筋肉トレーニングなどを具体的にどのようにするべきか、今後お示ししていきます。
【坂東】