藍色の風 第14号目次
心臓震盪(しんぞうしんとう)
診察中に、不整脈で治療中の患者さんが次のように話しました。「不整脈がおこったときは、胸をドンドンたたくんよ。ほしたら治るかもしれんとおもうて‥」
「それは止めといて。」と私。心臓のリズムに変化があるとき、外部から胸を叩いて「しっかりせえ」という気持ちになるのはわかります。しかし、それは心臓にとっては危険な状態を誘発する可能性があり、胸を叩くのは止めた方がよいのです。
心臓震盪という言葉を聞かれたことがあるでしょうか?特に子供に起こりやすく、全く元気だった子供さんがちょっとした胸部への打撲で心臓が止まってしまう状態を言います。図に心電図を示しますが、心臓が一回収縮して拡張したときにこのような波形を示します。心電図のT波直上近辺は受攻期とよばれ、この時期に心臓に衝撃が加わると心室細動という心停止状態になることがあると分かっています。この受攻期に発生する期外収縮も危険であり、R on Tと呼んで循環器医は気をつけます。
可能性は非常に少ないとは思いますが、この受攻期に胸を叩いてしまうと運悪く心室細動に陥ってしまうことがありえます。不整脈が出現したからといって、胸をドンドン叩くのはやめましょう。
ただ、心臓震盪の発生率は圧倒的に未成年に多くなっています。これは子供さんの胸は正中部分の胸骨をはじめとして、肋骨などにも弾力があり、外部からの刺激が心臓に伝わりやすいからです。野球のボールを胸にあてて心停止になったというニュースを覚えておられる方があるかもしれません。因みに私は子供の頃、少年野球にどっぷりつかっていました。内野のノックを受けるとき、イレギュラーバウンドのボールは胸で止めて前に落とすよう指導されました。キャッチャーをしたときも、投手のワイルドピッチは体を張って止めるよう教えられました。しかし心臓震盪予防の観点からは、このような練習が危険なことは明らかです。「心臓震盪から子供を守る会」という団体がありますが、同会では少年野球における安全で適切な指導をと広報しています。また心臓震盪を防御するような胸当てパッドも試作されています。興味のある方は同会のホームページをご覧下さい。
野球に限らず、お子さん、お孫さんが胸に打撲を受けるようなスポーツをしている場合には、胸部への打撲を避けるようお伝え下さい。なお、心臓震盪を誘発する衝撃は骨が折れたりするような強い衝撃ではなく、キャッチボールでよそ見をしていて、ボールが胸に当たったという程度の弱いものでも誘発されることがわかっています。
心臓震盪が発生したときにはAEDによる除細動が必須です。県内の高等学校にはAEDは行き渡ったと思いますが、小中学校にも是非必要です。
【坂東】