歌丸さんからのメッセージ

クリニックの掲示板に、笑点で有名な落語家桂歌丸さんのポスターを貼っています。皆さんもご存知のように、歌丸さんは肺気腫の急性憎悪により昨年2月に入院加療を受けられました。無事に回復し、復帰時の会見では「息を吸うことはできるが吐くことができない。空気が抜けてしゃべれなくなる状態で、本当に苦しかった。この苦しみを二度と味わいたくない。」と言われ、52年間吸い続けたタバコを封印し"禁煙宣言"をされました。

歌丸さんのポスターからは『タバコが原因で起こりうる病気で、仕事や活動が制限されないよう皆さんも気をつけて!』というご自身の闘病体験に基づいたメッセージが伝わってきます。歌丸さん同様、私たちスタッフも皆さんがいつまでもお元気に活動できるよう、お手伝いをしていきたいと思っています。そこで今回はタバコ煙のことについてお伝えしようと思います。

換気扇は完ぺき??

「タバコは換気扇の下で吸っているから大丈夫」「外で吸って家の中では吸っていないから…」とよく聞きます。はたして本当に大丈夫でしょうか? タバコの煙はタバコから出ている白い部分だけではありません。やかんの湯気と同じで、水滴を含んだ粒子部分は白く見えますが、ガスである水蒸気の部分は見えません。白い部分が10%、見えない部分が90%で、意外なほどに拡散しています。換気扇を回しながらカレーを作っても、家中にカレーの臭いが漂っていますよね。それと同じで、換気扇ですべてのタバコの煙を排気することは困難であり「臭いのあるところには煙あり」と考えて下さい。

外で吸ったら大丈夫??

屋外での喫煙はどうでしょうか?下の表は受動喫煙者の尿中ニコチン量を示しています。喫煙者が家庭内のどこでタバコを吸うかによって、受動喫煙者の曝露程度が異なります。家庭に喫煙者がいない場合の尿中コチニン量を1として比較しています。

喫煙場所によるニコチン曝露(尿中コチニンを指標として)

喫煙形態 曝露スコア P値
非喫煙(n=433)  
ドアを閉めて屋外(n=216) 1.99 0.015
ドアを開けて屋外(n=45) 2.39 0.069
換気扇の下(n=50) 3.23 0.010
不定(n=50) 10.32 <0.001
屋内(n=28) 15.09 <0.001

Johansson,A.et,al.Pediatrics2004;113:291-295

また母親が喫煙者である場合、「家の中では絶対吸わない」というグループと「家の中で自由に吸っている」としたグループでは、子供の毛髪中コチニン濃度に差がなかったという報告もあります。

このように、屋外で喫煙した場合でも窓やサッシの隙間から屋外のタバコ煙が屋内に入りこんでいることや、喫煙者の呼気・衣類・毛髪・手などを通じて室内にタバコ煙の成分が持ち込まれていることがわかっており、影響がないとはいいきれません。

軽いタバコ

「軽いタバコにしているから大丈夫!」この言葉もよく聞かれます。吸いやすさと喫煙による害を少なくしたい気持ちから「軽いタバコ」を選びますが、喫煙によるニコチンとタールの測定にはトリックがあります。

国際的な測定法では、図1のような測定器でタバコの煙を2秒間、35ml吸引するのみです。35mlとは、ほぼ1辺3.3cmの立方体の体積にすぎず、吸引する時間も量も少なすぎて実際の喫煙とは合致しません。また、フィルター部分にはミシン目によく似た穴が開けられていて、軽いタバコほど穴の個数が多くなっています。吸引するときにその穴から空気が流入して煙が薄まるために測定値が低くなっています。実際に吸う際には、空気とタバコ煙が一緒になって速いスピードで体内に入るため吸いこむ量は多くなります。また、フィルターにつけた穴はタバコを持つ手指や唇で塞がれやすい位置にあり、喫煙時に塞がれてしまうと測定時とは異なった濃い煙を吸っていることになります。以上のことから「軽いタバコ」は決して軽くはないことがわかります。

タバコによる健康被害も禁煙によるメリットもよく理解しているのにやめられない…それがタバコの恐ろしさです。「なかなか禁煙する決心がつかない…」そんな方もいらっしゃるかと思います。誕生日や記念日など、何かきっかけを見つけて禁煙してみませんか? 

引用文献:禁煙治療マニュアル(日本呼吸器学会)
禁煙支援はたのしく(高橋裕子編集) 

 【看護師:速水・立石・竹内・長尾・阿部】