藍色の風 第20号目次
「病気」と「病気の要因」
どうしても解けなかった数学の問題で解決の糸口が見えた時、行き詰まった仕事で名案が浮かんだ時、人はハタと膝をうちます。「本質的な治療が必要」ということをどうしたら皆さんに伝えることができるか、表面を繕うような治療ではなく、根本的な治療が必要であるということを、どのように表現したらわかってもらえるか、よく考えます。
高血圧症の人に降圧剤を投与することが治療ではありません。糖尿病の人に糖尿病薬を処方するのが治療ではありません。それらは治療のごく一部です。なぜ、高血圧や糖尿病になったのか、遺伝的なことが原因か、環境や生活方法が悪さをしているのか、それぞれの方の原因を分析し、それに対処することが必要です。こういった診療をするには、私達の時間も能力もまだまだ不十分で、さらに研鑽が必要とは思っています。
先日、とある研究会で香川県の堀口 裕先生という医師にお会いしました。免疫機能などに関する仕事を精力的に進めている開業医です。その先生の発表で非常に興味深い表現がありました。根源的な治療が必要ということをわかりやすく示されています。以下に堀口先生の考えを要約します。
健康な人に癌ができたとき、これまでの医学では癌を取り除くことが治療になると考えてきました。再発予防に抗ガン剤などの種々の療法が追加されています。しかし再発することも多く、最終的に天寿を全うできないこともよく見聞きします。このような関係を図式に表すと下のようになります。
発生した癌を取り除けば健康になるはずなのに、健康になりきりません。それではどう考えればよいのでしょうか?病気になるという事は、健康な身体の上に単に病気が加わるのではなく、病気の要因も一緒に加わると考えます。そしてその病気の要因も一緒に除くようにしなければ健康にはならないと考えるのです。
いかがでしょうか?生活習慣病の治療に際しても、表面にでている症状や検査異常に対処しても「病気の要因」をコントロールしなければ病気がすぐに顔をだすことがわかります。狭心症や心筋梗塞症に対して風船治療やバイパス手術を行います。こういった治療手段は生活の質を良くしたり、命を長らえたりするために重要ですが、それは一時しのぎと考える方が得策です。
自分にとって「病気の要因」は何なのか?それをコントロールするためにどうしなければいけないのか?それを考える事が重要です。もっとも、すべての人でこの「病気の要因」をコントロールできるわけではありません。遺伝的な要因への対応は困難なのですが、その他の要因には対処できるものも多く見られます。
病気の治療において、表面に現れている症状や検査値の推移に踊らされず、根本的に何をコントロールしなければいけないのか、自分にとって「病気の要因」は何か?真の敵を見失わないように、ご注意下さい。病状が固定してしまう前に、「病気の要因」への対応を考えられるようお勧めします。
【坂東】