肩こってませんか? 〜肩こりの理由と解消法について〜

多くの人を悩まし続けている「肩こり」。その歴史は夏目漱石が1910年(ちょうど100年前)に「門」という小説の中で「指で押してみると首と肩の継ぎ目の少し背中へと寄った局部が石のように凝っていた」と紹介されたことが始まりとも言われています。

では、なぜ「肩こり」が発症するのでしょうか? 人類が進化の過程で2足歩行を始めたことが肩こりの要因といわれますが、その理由は人体の構造に隠されています。人間の頭の重さは体重の約8%あるといわれます。例えば体重50kgの人は4kgもの重さを支えているのです。その重い頭を支えているのが背骨と筋肉です。背骨は脊椎と呼ばれ円柱状の骨が連続して首から腰まで重なっています。脊椎を横から見るとゆるやかなS字状のカーブを描いています。これを「生理的湾曲」といい脊椎が重い頭を支える上で負担を分散する合理的なデザインになっています。そして重い頭を支え、骨の複雑な動きをコントロールするのが筋肉です。頭を支え首や肩周囲を動かす筋肉は首、肩、背中周辺の広範囲にあります。その代表的な筋肉が首の後ろから肩甲骨全体を覆っている「僧帽筋」です。それ以外に僧帽筋の下側にある「広背筋」、肩を覆う「三角筋」、首の横から肩にかかる「肩甲挙筋」、首の前側には耳の下から鎖骨にかけて「胸鎖乳突筋」があります。これらはすべて左右対称にあり、頭を支え正しい姿勢を保つために必要な筋肉です。

ここで問題です?

頭を前のめりにしたまま長い時間パソコンに向かっていると、体はどうなると思いますか?
正解です。「肩こり」が起こります。同じ姿勢や前のめりになる悪い姿勢を長時間続けていると、首や肩の筋肉(僧帽筋、肩甲挙筋、広背筋)が元の状態に戻ろうと収縮し、ずっと緊張したままになって血流が悪くなり、筋肉疲労が起こってきます。これは筋肉の中の筋線維が膨張し筋肉の中を通る血管が圧迫されて血流が妨げられてしまうからです。本来、筋肉の中では血流で運ばれてきたブドウ糖が燃焼されてエネルギーに変換されますが、血行が悪くなると酸素の供給が不十分になり、筋肉の中に乳酸などの老廃物が溜まってしまいます。これこそがまさに「肩こり」の状態です。

次に少し復習です。

体内を巡る主な血管には動脈と静脈があります。動脈は心臓のポンプ機能により血液を全身に押し出しています。一方、静脈は全身に巡った血液を心臓に戻す血管で、動脈とは異なり脈を打つことはありません。では静脈がどのようにして血液を心臓に返しているのでしょうか?それは静脈周囲の筋肉が収縮、弛緩を繰り返し、心臓の方に向かう一方向弁をもった静脈を圧迫することで、血液が心臓に返ります。じっとしたまま筋肉を動かさずにいると、静脈還流が悪くなり、末梢循環が悪化します。
「肩こり」と言っても人それぞれ症状が異なり、医学的な定義づけをすることができないのですが、男女別の「気になる症状のアンケート調査」でも「肩こり」は、男性2位、女性1位(平成16年国民生活基礎調査)となっています。なぜこれほどまで肩こりに悩む人が多いのでしょう。実は肩こりを訴える人が多いのは日本人だけのようで、英語には「肩こり」に該当する単語がないそうです。その理由として日本人は欧米人に比べて筋肉量が少ないからだと言われています。

また人それぞれの癖や習慣による骨格のゆがみも、肩こりと深い関係があるようです。重心の移動のさせ方、首・肩周囲の筋肉の緊張やバランスが悪くなることなどの影響が考えられます。その例として、歯の噛み合わせが悪い、片側で重い荷物を持つ、足を組む、ほおづえ、横座り、ひじ枕、テレビの位置が高すぎる、目に合わない眼鏡、ハイヒール、髪型(ロングヘアー)などが挙げられます。夏の冷房による体の冷えや逆に体を温めるための過剰な重ね着も要注意です。それ以外に仕事が忙しく運動不足の人や、ストレスなども肩こりの原因になります。私たちを取り巻く現代の環境が便利になった反面、私たちは体を動かす機会をどんどん少なくしてしまったのです。「毎日ほぼ終日、椅子に座っている」とか「今日は肩より上に腕を上げなかった」という人も珍しくないと思います。

さて、肩こり対処法としてマッサージ、ツボ押し、鍼や灸、電気温熱療法、湿布や薬などさまざまな方法をよく耳にしますが、こういった方法は主に痛みを抑えるためのものであり根本的な解決方法ではないことを理解してください。肩こりの原因を改善することが一番大切です。血管は全身をまわっていますので日ごろから正しい姿勢を意識し血流を滞らせないことです。全身の筋肉をバランスよく動かす散歩なども効果的です。

自宅できる肩こり解消法として(1)肩を温める蒸しタオル(2)お風呂で全身を温める(リラックス)(3)ストレッチ体操(4)筋肉トレーニングがあります。それぞれに関して非常に判りやすく記載された本が出版されています。(くび・肩・背中の痛み:星川吉光監修 法研出版社)待合室に5冊用意しましたので、興味のある方は待ち時間にご覧下さい。

さて、「肩こり」のような症状の中には 肩こり以外の原因で類似の症状が起こることもあります。くびの骨、肩周辺の組織の異状によるものや消化器系、循環器系の病気が隠れている場合もあります。治療法を選ぶ場合にも単なる肩こりと自分で判断せず専門医で相談されることをお勧めします。また気になる症状がございましたらいつでも院長にお尋ねください。

たかが「肩こり」と放っておかず 肩こりも日々の誤った生活習慣の積み重ねで起こります。ちょっとした心がけで肩こりを遠ざけることができたらいいですね。即効薬はないようです。肩こり解消のためにもまず運動は欠かせません。適度な運動をすることで全身の血行がよくなり、老化防止にもつながります。好きなスポーツなら楽しんで続けられ、ストレス解消にもなりますね。生活の中に運動を取り入れてみませんか。まずはウォーキングからお勧めします。

引用文献:星川吉光監修「くび・肩・背中の痛み」  

【看護師:速水・立石・竹内・長尾・阿部】