藍色の風 第33号目次
若年性の心臓性突然死
第4回「いつもありがとう」作文コンクール(朝日学生新聞社主催)で、最優秀賞に輝いた広島市立中島小学校1年の片山悠貴徳(ゆきのり)君(7)の作文を転載します。
「ぼくとお父さんのおべんとうばこ」
おとうさんがびょうきでなくなってから三年、ぼくは小学一年生になりました。
おとうさんにほうこくがあります。きっとみてくれているとおもうけど、ぼくはおとうさんのおべんとうばこをかりました。ぼくは、きのうのことをおもいだすたびにむねがドキドキします。ぼくのおべんとうばことはしがあたって、すてきなおとがきこえました。きのうのおべんとうは、とくべつでした。まだ十じだというのに、おべんとうのことばかりかんがえてしまいました。なぜきのうのおべんとうがとくべつかというと、それはおとうさんのおべんとうばこをはじめてつかったからです。おとうさんがいなくなって、ぼくはとてもさみしくてかなしかったです。
おとうさんのおしごとは、てんぷらやさんでした。おとうさんのあげたてんぷらはせかい一おいしかったです。ぼくがたべにいくと、いつもこっそり、ぼくにだけぼくの大すきなエビのてんぷらをたくさんあげてくれました。そんなとき、ぼくはなんだかぼくだけがとくべつなきがしてとてもうれしかったです。あれからたくさんたべて空手もがんばっているのでいままでつかっていたおべんとうばこではたりなくなってきました。
「大きいおべんとうにしてほしい」とぼくがいうと、おかあさんがとだなのおくからおとうさんがいつもしごとのときにもっていっていたおべんとうばこを出してきてくれました。「ちょっとゆうくんには、大きすぎるけどたべれるかな」といいました。でもぼくはおとうさんのおべんとうばこをつかわせてもらうことになったのです。
そしてあさからまちにまったおべんとうのじかん。ぼくはぜんぶたべることができました。たべたらなんだかおとうさんみたいに、つよくてやさしい人になれたきがして、おとうさんにあいたくなりました。いまおもいだしてもドキドキするくらいうれしくておいしいとくべつなおべんとうでした。もし、かみさまにおねがいできるなら、もういちどおとうさんと、おかあさんと、ぼくといもうととみんなでくらしたいです。でもおとうさんは、いつも空の上からぼくたちをみまもってくれています。
おとうさんがいなくて、さみしいけど、ぼくがかぞくの中で一人の男の子だから、おとうさんのかわりに、おかあさんといもうとをまもっていきます。おとうさんのおべんとうばこでしっかりごはんをたべて、もっともっとつよくて、やさしい男の子になります。
おとうさん、おべんとうばこをかしてくれてありがとうございます。
天婦羅屋さんで忙しく働くお父さんが、店に来てカウンターの隅に坐る悠貴徳君と視線を合わせあっている情景が目に浮かびます。感受性豊かな悠貴徳君がこれからもスクスクと育つようにと祈る思い、切です。
さて、循環器を専門とする医師としては、この作文に感動しているだけでは済まされません。悠貴徳君のお父さんは27歳のときに心臓発作で亡くなったと短く記載されていました。詳細がまったく不明ですので、断定的なことは言えませんが、遺伝的に若くして突然死する疾患が指摘されており、このような若年性の心臓性突然死が発生した場合には兄弟、姉妹、子供にも同様のことが起こりうるため、確認する必要があります。
私が以前拝見していたご夫妻のお孫さんで、スポーツマンの20代男性が普段の生活のさなかに心停止を来たし、蘇生できたものの、植物状態になってしまったと診察時に伺いました。同様のことが他のお孫さんにも発生する可能性があるため、該当する方にクリニックを受診するよう勧め、来院されました。拝見すると二人のうちの一人に突然死の危険性があり、専門病院を紹介したところ、先天性QT延長症候群と診断され、突然死予防のためにICDという除細動器の移植手術を受けられました。血縁関係のある親族で、50歳くらいまでに突然死された方がある場合はお申し出ください。確認いたします。
【坂東】