血圧はどこまで下げたらよいか?

高血圧症診療に際して、降圧目標という言葉を使います。血圧をいくら以下にしましょうという目標です。高齢者では140/90mmHg未満、若年・中年者では130/85mmHg未満、糖尿病や腎臓の機能障害がある人では130/80mmHg未満とされています。これは日本高血圧学会が作成した高血圧治療ガイドライン (2004)に記載されています。この値は誰かが思いつきで言ったものではなく、きちんとした根拠があります。その根拠の一つに久山町研究がありますが、今回はその一部をお知らせします。

福岡市の東隣に人口7000人ほどの久山町があります。人口の移動が少ない町で、人の経過をみるのに適した町だったようです。九州大学第二内科の医師達がこの町の住民を対象に、脳卒中や心臓血管病がどのくらい発生するかという研究を始めました。この研究の精度を高めるために、九州大学の医師達はさまざまな工夫をし、徹底した調査を行っています。40歳以上の久山町住民80%以上を常に検診し、検診を受けた町民には24時間365日にわたる九州大学第二内科医師のバックアップ体制が敷かれました。住民がどのような病気になったか、いつ亡くなったかということを調べる追跡率も99%以上と驚異的な値を示しています。また亡くなられた方の80%以上から解剖の許可をいただき、死因を正確に追求することも行っています。

その久山町研究は1961年に1621名が登録され、第一集団として研究がスタートしています。高血圧症の降圧目標設定の根拠になったのが、この1621名の資料でした。
1961年から1993年までの32年間に、6回の検診をし、その都度血圧を計測しています。そして脳梗塞を発症したのはどのような血圧の人だったかを表したのが下の棒グラフです。血圧が140mmHgを超えてくると脳梗塞が有意に増加していることがわかります。もう少し、この資料を調べると、もっと詳しいことがわかります。脳梗塞にはラクナ梗塞、アテローム血栓性脳梗塞、心原性脳塞栓症の三種類がありますが、日本人にもっとも多いのがラクナ梗塞です。ラクナ梗塞というのは脳の穿通動脈の血流障害による梗塞をいいます。このラクナ梗塞だけをとらえて、血圧とラクナ梗塞発症率を調べてみると、至適血圧(120mmHg以下)から正常血圧(120−129/80−84)、正常高値血圧(130−139/85−89)と上昇するにつれて発症率が増加し、特に女性では血圧が低いほど、ラクナ梗塞の発症が少ないことがわかりました。フラフラしたり、目の前が暗くなったりすることが無い限り、日本人に多いラクナ梗塞を避けるためには、血圧の低い方が有利であることがわかります。

高血圧による各種合併症を防ぐために、食事・運動で体の調子をとり、足らない部分を薬で補い、目標値まできちんと血圧を下げるよう、再度お勧めいたします。

 【坂東】