藍色の風 第15号目次
コレステロールの値をどう考えるべきでしょうか?
コレステロールが高いと心筋梗塞や脳梗塞の発症頻度が増加することは知られています。日本人のコレステロール治療をどのように考えるべきか、2007年4月に『動脈硬化性疾患予防ガイドライン2007年版』が日本動脈硬化学会から出版されています。今回はその概要をお知らせします。
以前は「高脂血症」という用語をよく使用しました。「血液中の脂質が多く、動脈硬化を進展しやすい状態」という意味でした。しかし次のような誤解を生じることがあるため、「高脂血症」という用語の再検討がなされました。
コレステロールには善玉のコレステロールであるHDLコレステロール(以下HDLと略す)と悪玉のコレステロールであるLDLコレステロール(以下LDLと略す)があります。採血検査でコレステロール量が多いと言われても、実は善玉のHDLが多くて、見かけ上コレステロール値が高くなっている時があります。こんな時は治療の対象にはならないのですが、定義の上では「高脂血症」になってしまい、実体に合いません。またコレステロール値が正常でも、善玉のHDLが少なければ、動脈硬化が進みやすいことがわかっています。このとき、「高脂血症」という用語はあてはまりませんが、その方にとって動脈硬化は進行しやすのです。「高脂血症」という用語ではHDLが低く動脈硬化が進みやすいという病態を正確に捉えることができません。
こういった事情のために、「高脂血症」という用語ではなく、「脂質異常症」という用語を使用することになりました。コレステロールの全体値を考えるのではなく、その人のLDLがどの程度か、大事なコレステロールであるHDLがどのくらいかといったことに注目しようと呼びかけています。
その脂質異常症の診断基準はLDLが140以上、HDLが40未満 中性脂肪が150以上とされています。誤解があってはいけないのですが、これらの値は薬を使用する基準ではありません。この基準値は「脂質異常症の診断や動脈硬化性疾患のなりやすさを判断する値」なのです。薬の使用はその方が脂質異常症以外の危険因子をどの程度もっているかによって判断します。
血液検査を行ってLDLやHDL等に異常値がでたとき、どう考えて治療を開始するか示します。基本は当クリニックでもお勧めしている食事相談をはじめとした生活習慣の改善です。生活習慣の改善を基礎として、治療の対象者を大きく二つに分けます。一つは狭心症や心筋梗塞のある方。このグループに属する方はLDLを100未満に維持した方が再発は少ないことがわかっています。生活調整をしてもLDLが100未満にならないようなら薬物を開始します。もう一つのグループは狭心症や心筋梗塞症のない人達です。このグループに属する人はLDL以外の危険因子をどのくらい持っているかによって目標とするLDLの管理値が異なります。LDL以外の危険因子として(1)年齢(男性45歳、女性55歳以上)(2)高血圧症(3)耐糖能異常を含んだ糖尿病(4)喫煙(5)血縁関係のある家族に狭心症や心筋梗塞症の人がいるかどうか(6)HDL40未満があります。この6つの危険因子のうち3つ以上ある人はLDLを120未満、1〜2つある人は140未満、これらの危険因子がまったくない人は160未満に維持するよう勧められています。なお、二つのグループのいずれの場合もHDLは40以上、中性脂肪は150未満がお勧めです。
ご自分がどのグループの、どのレベルに属するか、採血結果などからご判断下さい。わかりにくいときは私か、看護師、管理栄養士、臨床検査技師にお尋ね下さい。
【坂東】