甲状腺と心臓の関係

甲状腺とは

甲状腺は男女を問わず、誰にでもある臓器です。のど仏の下に蝶が羽を広げて気管を抱くような形でくっついています。大きさは、縦×横3〜5p位・厚さ1p位・重さは15g位で、正常の甲状腺は柔らかいので外から触ってもわかりません。(右図)

甲状腺の働き

甲状腺は、(左図)のように食物中のヨードを材料にして甲状腺ホルモンを2種類合成し、血中に分泌する内分泌の臓器です。その甲状腺ホルモンにはヨウ素を4個もつT4と3個もつT3があります。身体の成長・発育や新陳代謝の維持に必須で、精神活動にも重要な役割を果たしています。甲状腺ホルモンの量は、脳にある脳下垂体から出る甲状腺刺激ホルモン(TSH)により調節されています。この甲状腺ホルモンのちょうど良い量が血液中に存在することで、体の安定が保たれています。
T3T4TSHは血液検査後結果に数字として出ます》

甲状腺ホルモンの過不足の全身症状

  • 甲状腺ホルモンが過剰になる甲状腺機能亢進症・・・
    主な症状は、新陳代謝が亢進するため体重減少(食欲はある)・頻脈(脈が速く打つ)・動悸(ドキドキ感)・息切れ・体温上昇・多汗・手足(特に指)のふるえ・下痢しやすい(排便回数の増加)・落ち着きがなくイライラするなどがあります。
  • 甲状腺ホルモンが不足する甲状腺機能低下症・・・
    主な症状は、新陳代謝が低下するため体重増加(食欲はない)・身体のむくみ・徐脈(脈が遅く打つ)・体温低下・皮膚の乾燥・便秘がち・不活発・無気力などがあります。

甲状腺ホルモンの心臓・血管系への作用

心臓は甲状腺ホルモンに感受性が高いため、他の臓器より影響を受けやすく、甲状腺機能亢進症及び機能低下症では様々な循環器系の異常を起こします。

甲状腺機能亢進時は、ホルモンが直接心筋の収縮能を増強させるため、最高血圧(上の血圧)が上昇します。また間接的に抹消血管の緊張度を下げるため、最低血圧(下の血圧)が減少します。そのため上・下の血圧の差より生じる脈圧が大きくなります(ドキドキ感を強く感じます!)。心筋への刺激で頻脈も起こります。心臓内の神経系である刺激伝道系に作用すると心房の筋肉が影響を受け、心房性の不整脈が多くみられます。中でも心房細動が高頻度に認められます。

また甲状腺ホルモンは冠動脈の攣縮を誘発する作用があり、それによる狭心症発作を起こすこともあります。

甲状腺機能低下時は、亢進時と逆のことが起こり、脈が遅くなったり心筋の収縮能が低下したりします。また抹消血管の緊張度増加により、上の血圧が下がり下の血圧が上がったりします。特徴的なこととして、心臓の周囲に水が貯まることもあります。機能低下の方の90%以上に二次性の脂質異常症を認めるため、動脈硬化からの狭心症、心筋梗塞などの発症に注意が必要です。
このため、動悸・頻脈や徐脈・心房細動といった不整脈のある場合などには、直接心臓に器質的疾患がないかをみるだけでなく、血液検査で甲状腺ホルモンの量を調べています。甲状腺がいつも穏やかで心臓と仲良くお付き合いして欲しいですね。

【臨床検査技師:田中・宮原】