スウェーデンの工夫

年末年始の1週間をかけて、娘の留学先であるスウェーデンを訪ねました。滞在先が『脱化石燃料の町』として世界的に有名なベクショー市であり、どのようなエネルギーの使い方をしているのか、非常に興味がありました。

スウェーデンは2010年までに原子力発電を段階的に廃止すると一度は議決しましたが、2006年9月には廃止を棚上げする野党連合が政権をとり、今後どのような判断をするか注目されています。石油高騰の折、市民生活がどのような状況であるか、興味津々でした。

訪問した時の日中の気温は3〜4度程度であり、それほど寒くはありませんでした。娘のホームステイ先にも泊めてもらいましたが、室内の暖房は各部屋の温水ヒーターのみで、日本でよくみられる電気ストーブやファンヒーターまた、空調設備はありませんでした。この温水がどこから送られてきているのかを尋ねると、翌日その工場を案内してくれました。


(エネルギー工場)

町の中心部から車で数分のところに、エネルギープラントと呼ばれる工場がありました。ベクショー市は人口8万人程度の小さな町ですが、このエネルギープラントで電力と温水を作っています。温水は道路下に埋設されたパイプを通じて各戸に届き、温度の低下した温水は再循環して工場に帰ってきています。この温水や電気を作るためのエネルギーは間伐された白樺のチップ材でした。スウェーデンでは白樺林が延々と広がっていますが、地元の資源を上手に利用しています。石油はどのように使われているのかと思いましたが、町中には日本と同じように車が走っており、ガソリン代は1リットル220円でした。

広大な白樺林があるとはいえ、このような温水システムが運用できるのは国土面積が日本の1.2倍でありながら、人口が900万人前後という人口密度の低さゆえと思います。日本で同様のシステムを運用するには無理があると感じますが、身近な資源利用の方法はお手本になると感心しました。

日本では管理されずに放置されている森林が多いと報道されています。以前、上那賀を襲った台風の後、現地救援に行きました。その帰り、ダム湖に大量の間伐材が流れ込んでいるのを見かけましたが、この木材を処理するためにかなりの経費がかかったと新聞で報道されました。湖面に浮かんでいる木材をみて、なんともったいないことかと思ったことでした。

さて、石油の値段は今後もジワジワと上がっていくことでしょう。このような状況で、かつては利用するには採算が合わないとして放置されてきた日本の森林など、我々の周囲にある資源利用を再度検討する必要があると思います。2月17日の徳島新聞にも「製材時に不要となり、処理に困っていた杉やヒノキの樹皮を燃料に使用する工場が、大分県で稼働する」と報じられていました。 

短い滞在期間ながらスウェーデンの人達と話し、個々人のレベルにおいて日本人がスウェーデン人より劣っているとは思えませんでした。ごく普通の、気のいい恥ずかしがり屋の隣人です。個々人として特別な差がないのに、エネルギーの使い方をはじめとして、なぜスウェーデンには国としての賢明さが見えるのかと考えました。

伝教大師、最澄がその著書『山家学生式』の中に「一隅を照らす 此れ即ち国宝なりと」という言葉を残しました。一隅を照らす人が多くなればその国は繁栄すると私も考え、行動してきました。しかし、地球規模の係わりの中で、日本が「一隅を照らす」人の集団であるだけでは、国を適切に維持できないと思います。「一隅を照らすこと」は非常に重要で、個々人はそれを目指すべきでしょう。しかしその「一隅を照らす人々」を束ね、国としての方向付け、施策提案のできる人が必要です。「一隅を照らしたこともない人」が単に二代目三代目の継承として、全体を統括しようとしても適切な導きができないことは明らかです。歴史的、空間的な拡がりを見据えて、国や地方を束ねていける経験豊富な人、このような人がどのくらい、我が国に存在しているか、どのようにしてそのような人材を育成するか、これが今の日本の真に重要な課題ではないかと、帰国便の機内で思いあたりました。

【坂東】