藍色の風 第21号目次
捨て目を効かす
本を読む楽しみの一つに、知らない文章表現に出会うということがあります。「開運!なんでも鑑定団」中島誠之助さんの文章に「捨て目を効かす」という表現がありました。
【中島誠之助さん】
骨董の世界で、通りすがりのショーウィンドーなどに興味深いものがあるかどうか、見ないようでみていること意味するようです。日常の例として、友人と一緒に歩いていて「カレー、食べたいね」と言われたとき、「さっきの四つ角にカレー屋さんがあったよ」と答えるような状況であれば、「捨て目を効かせていた」ことになります。
心臓外科医であった昔、次のようなことがありました。局所麻酔で、足首のあたりの血管手術をしていたように思います。手術室のE看護師と二人で手術をしていましたが、病棟のT看護師が患者さんに関する指示を受けに手術室に入ってきました。用件が終わった後、T看護師は患者さんの枕元に行き、一言二言問いかけた後、毛布をかけ直して手術室を出ました。その時私の助手をしていたE看護師は「Tさんはいつでも看護をしている。」とつぶやきました。私への用件が済めばそのまま手術室を後にすれば良いのですが、手術を受けている患者さんの状態を観察し、寒くないかと心配りをして出て行きました。
「捨て目を効かす」という表現に出会ったとき、はるか20数年前のこの情景が鮮やかによみがえってきました。
斜めになった壁の絵を通りすがりに直したり、玄関の乱れた靴を揃えたりする人もいれば、そのまま見過ごしてしまう人もいます。色々なタイプの人がいるので、世の中に味があり面白いのですが、身の回りの情報を瞬時にキャッチして行動できる人とできない人との差はなぜ生じるのでしょう?人としてのアンテナの感度に、どうして差ができるのか、納得のできる答えに行き着いてはいません。
【坂東】