徳島大学名誉教授 森 博愛先生

私は心臓外科医として四半世紀を過ごしましたが、心電図学の専門医というわけではありません。当クリニックを受診される方の中に「循環器の専門病院を受診したがその診断に納得できず、先生の診察を受けたい。」として来院される方が少なくありません。このような場合、心臓血管外科分野の疾患であれば特別な困難はなくお答えしています。しかし純粋な心電図診断となると一筋縄ではいかないことがあります。そんな時、助けていただいているのが森 博愛先生です。先日も私には判断しきれいない心電図異常に関して森先生にお尋ねしたところ、見事な解析結果を添えてお教えいただきました。

森先生は徳島大学医学部の内科が第一から第三と分類されていた時代の第二内科教授でした。ご存知の方も多いと思います。私も学生時代に心電図学をみっちり教わりましたが、その当時の私は循環器疾患にあまり興味はなく、積極的に心電図学を学んだ学生ではありませんでした。

森先生は医学部教授を退官されてからは文理大学などでも教鞭をとっておられましたが、現在は田岡病院で週に1回の外来診療を行われる傍ら、各種の講演や徳大医学部での講義、心電図に関する医学書籍の出版、インターネットを通じての心電図学講義など、後進に対して非常に熱心かつ多彩な働きかけをされています。インターネットのメール機能を利用した心電図講義は圧巻で、心電図の実例を挙げそれに関する設問が2〜3日に一回の割合で送信されてきます。数日後にその解答が送られてくるのですが、その解説文が非常に精緻なのです。先日送られてきた解説文の文字数を数えてみたところ2500文字もありました。すべてご自分で入力されています。開設されたのは平成15年7月で今年6月の時点で情報発信数は1979通、提示解説症例数は634例に上ります。

お生まれは世界大恐慌の4年前にあたる1925年ですので、今年で85歳になられます。教授退官後は悠々自適の生活をされる方が多いように思うのですが、八十路の半ばに達してもエネルギッシュに活動されるその原点はなんだろうと思い、ご多忙の先生に無理をお願いしてお話しを伺うことができました。

特に趣味もなくテレビの番だけしているといった高齢の方が見られる中で、なにゆえこのように精力的な活動を継続されているのですかとお尋ねしたところ、一つは自己主張のため、もう一つは一般医の心電図に関するレベルを上げたいためと答えられました。教授時代は学会発表や論文執筆などの機会が非常に多かったものの退官後はそれらの機会が減少し、日進月歩の医学の中で心電図に関して自分の考えも主張したいと思われた由です。また森先生は検診施設での心電図診断の適否を確認できる立場にもおられるため、「徳島県における心電図診断の更なるレベルアップ」を企図されています。心電図学の泰斗と目されていた森先生の面目躍如といったところでしょうか。

先日NHKのクローズアップ現代という番組を見ていて、30年以上に渡ってハイチで医療支援活動を行ってきた須藤昭子さんという方の存在を知りました。医師であり、かつ修道女である彼女は83歳の現在でも現地で活動を続けている由でした。番組の終了間際にその須藤さんに対してキャスターが「83歳という年齢で、そろそろ引退というお考えは?」と問うたところ「これは私の生き方、生きる姿勢ですから…」と答えられました。

いくつになっても信じる道を歩まれる須藤さんと、85歳になっても心電図学の道を進まれる森先生とが、私にはダブって見えました。森先生の「生きる姿勢」をお手本にしたいと考えています。

【坂東】

追記:インターネット検索で「森博愛」と入力すると「心臓病と卯建のホームページ」という森先生のホームページが最上段に表示されます。医学関連の内容は一般の方々には難しすぎますが、森先生の活動の概要はわかっていただけると思います。お生まれが脇町ですので「うだつの町並み」の紹介もされています。ぜひ一度ホームページをご覧ください。