きつい下着にご用心!!

女性はいくつになっても美しくいたいものです。スリムな体型を維持して、おしゃれを楽しみたい。でも、「ぽっこりお腹」が邪魔をします。体のラインを少しでも美しく見せるよう、ボディスーツ等の補正下着を愛用している方もいらっしゃるかと思います。

私たちが着用している下着には、柔らかい素材で締め付けないタイプのものから、きつく締めて体型を補正するタイプのものまで様々な種類があり、締めすぎる下着は体に負担がかかります。今回は「きつい下着」について歴史的な背景をもとに医学的な視点から考えてみたいと思います。

下着の歴史

現代とは異なり20世紀に至るまでのほとんどの時代において、西洋の女性たちは肌の露出を抑えようとし、中世の終わりから約700年にわたってはコルセットを着用していました。それは女性のモラルの象徴でもありました。コルセットは布を固く糊づけして作成したものが原型となり、のちに鯨の骨や鉄が縫い込まれるようになりました。女性たちは細いウエストを求めてコルセットを極端に細く締めて砂時計のようなシルエットをつくり、理想のウエストは17〜18インチ(42.5〜45cm)ともいわれていました。しかし、コルセットをきつく締めることによって背中や脇腹の痛み、呼吸困難、血行不良、食欲不振などの体調不良を訴えたり、気絶したりすることもあったといわれています。そういった女性の健康悪化から医師たちはスポーツや転地療法(旅行)を勧め、その影響から女性の服装はコルセットのないゆるやかな衣装へと変化していきました。

今日ではコルセットは素材や装飾の面から廃れ、ウエストニッパーやブラジャー、ボディスーツ等着脱のしやすい下着に変化しています。また、医療用コルセットとして、腰痛の時など患部の固定によく使用されています。

さて・・・コルセットをきつく締めることにより、どういったことが体に生じ、健康障害を引き起こしていたのでしょうか??これについて考えてみます。

心臓の左心室から送り出された血液は動脈から各臓器に送られ、毛細血管を介して静脈に流れて心臓へと戻ってきます。末梢まで送られた血液は、心臓のポンプ作用だけで再び心臓へ返るのではなく、足の筋肉を動かすことによって静脈内の血液が心臓の方向へ移動する「筋ポンプ」作用と、呼吸による横隔膜の上下運動で血液を戻す「呼吸ポンプ」作用によって血液を心臓に返します。「呼吸ポンプ」作用では、胸腔内圧は常に陰圧に保たれており、息を吸うと横隔膜が下がってさらに陰圧となり、血液を胸腔内へ汲み上げる作用があります。

こういった体のしくみがある中で、コルセットをきつく締めあげると・・・

  1. 正常な呼吸運動が妨げられて呼吸困難感が出現する。
  2. 胸腔内圧が高くなるため心臓に返ってくる血液が少なくなる。そのため、心臓が送り出す血液量も少なくなり血圧が低下し、ひどくなれば意識を失う。
  3. 十分に食事が食べられない。そのため必要な栄養が取れていない。

といったことが起こっていたと考えられます。

現代では、砂時計みたいなシルエットを作り上げることはないかと思いますが、過度に締めすぎたきついコルセットやボディスーツの着用で、上記(1)〜(3)のようなことが起こりうる可能性もあります。ボディスーツでキュッと引き締められたシルエットは魅力的ですが、きつすぎる下着にはご注意下さい。また、当クリニックの診察では、聴診とともに腹部の触診もありますので、診察時にはボディスーツの着用をお控えいただければと思っています。

引用文献:戸矢理衣奈著「下着の誕生」

【看護師:速水・立石・竹内・長尾・阿部】