熱がでたら体が負けよんのか?

風邪をひいて熱がでると、慌ててしまう人がいます。「38℃になった!」と私の携帯電話に連絡があり、「風邪の菌に負けとんだろか?」と、心の内を伝えられます。しかし、熱が上がっているのは私達が風邪の病原体に負けてのことではありません。

風邪の病原体はほとんどがウイルスですが、それらが体の中に入ってきたとき、白血球が病原体をやっつけにかかります。その白血球が、サイトカイン呼ばれる種々の物質を分泌し、それがプロスタグランディンという物質を体内で作らせます。このプロスタグランディンが我々の体温を上げるのですが、体温が上がると我々の免疫能が強くなり、進入してきた病原体を殺しやすくなります。また進入した病原体が増殖することも防ぎます。風邪を引いて熱がでるのは私達が風邪の病原体に負けて熱がでているのではありません。ですから、解熱剤を安易に使用しない方がよいのです。ただ、往々にして私達の体は過剰に反応することがあり、発熱が強くなりすぎたり、長く続きすぎたりすることがあります。そのような時は体力も消耗し、却って回復が遅くなります。ですから、体温が高すぎて食欲がなかったり、倦怠感が強かったりするときには、そのときに限って解熱剤を使用し、体を整えるようにします。熱があっても食欲があり、不快感がないようならそのままでもよいのです。

遠い遠い昔、梅毒に罹患した人がたまたま高い熱のでる病気になって、梅毒の症状が改善したということがありました。抗生物質などがない時代のことですが、その当時の人にとっては非常に不思議な事だったでしょう。しかし、現代の知識からすれば理解できることなのです。もうおわかりと思いますが、体内の温度が上昇し、梅毒の病原体が死滅したのです。

「症状即治療」という言葉があります。症状があればそれはそのまま治療に向かっているということを意味します。風邪の時の発熱もちょうどこのことに当てはまります。ただ、たくさんの病気をもっている高齢の方は、我慢比べのようにして発熱と根比べはしないでください。発熱がつらいと感じるようであれば、頓服で解熱剤を使用することは悪いことではありません。判断に迷うときには私にご連絡下さい。

閑話休題。風邪は数日間で治る人がほとんどですが、できれば短く済ませたいし、引きたくありません。冬場には風邪やインフルエンザの方をたくさん診察しますが、開業してこの6年間、私が風邪やインフルエンザに罹患してクリニックを休診にしたことはありません。風邪をもらわないようにするため、次のようなことに気をつけています。『風邪やインフルエンザの方を診察した後には手を洗ってうがいをし、状況により葛根湯を服用する。風邪の引き始めにも葛根湯を使用する。』


【葛根湯】

手洗いやうがいの理由は説明するまでもないでしょう。葛根湯を使用する理由は次の通りです。市販の風邪薬は痛み止め、熱冷まし、鼻水止めの成分を含んでいますが、体の免疫力を増強させる作用はありません。私が時々処方するPLという風邪薬も同様です。これらの薬は風邪による症状を軽くする効果はありますが、風邪そのものを治す力はありません。風邪の症状が強いときに使用します。

これらの薬と異なり、葛根湯はヒトの免疫力を増強する作用があり、風邪をもらいたくないときや風邪の引き始めに使用すれば風邪の発症を抑えることが期待できます。服用すると体が少し暖かくなります。100%の効果を期待されると困りますが、愛用されてまったく風邪と無縁の方もおいでます。使ったことがない方は一度お験し下さい。なお、葛根湯には麻黄という成分が含まれており、服用すると時に胃がもたれるという方もおいでます。体の華奢な人に多いようです。葛根湯が体に合わない方はご相談下さい。

【坂東】