藍色の風 第31号目次
「話そーなー 智恵」
クリニックにはご夫妻で通院される方がたくさんおいでます。仲が良く、微笑ましいご夫妻が多いのですが、中にはこの先、大丈夫だろうかと心配になる高齢のカップルもおいでます。私自身は診察する立場ですが、反対にどのご夫妻からもいろいろと学ぶことが多く「将来はこうしよう。ああはすまい。」と参考にさせて頂いています。
さて、もう四半世紀も前のことと思います。私が勤務医として働いていた頃、外来にTさんという70代の男性が通われていました。詳しい病状は忘れてしまいましたが、あるとき妻が亡くなったと、たいそうしょげて外来を受診されました。お気の毒としかいいようのない落ち込みようで、かける言葉もない状態でした。しかし半年くらい経った頃でしょうか、診察時に「先生、これ読んで!」と一冊の小冊子を手渡されました。Tさんは地域の檀家総代をされていたようで、それはお寺がお彼岸に作成した冊子でした。その小冊子の中に、先立った奥様を想うTさんの詩が掲載されていました。職業詩人が選ぶような、研ぎ澄まされた言葉をちりばめた作品ではありませんでしたが、本当に心から溢れ出た、朴訥で飾り気のない言葉がそのまま書き綴られた詩でした。奥様を心底大切にされてきたことが伺われ、感銘を受けたことを覚えています。先日、書類の整理をしていて、コピーしてとっておいた詩を見つけました。皆さんにもお披露目したく、転載致しました。
【坂東】