藍色の風 第29号目次
慢性硬膜下血腫(まんせいこうまくかけっしゅ)
慢性硬膜下血腫とは、頭蓋骨の内側で脳を包んでいる硬膜と脳の間に、徐々に血がたまって血腫ができる病気です。年間発生頻度は人口10万人に対して1〜2名ぐらいでそれほど多くないのですが、後述するように当クリニックに通う方は注意が必要です。この病気は特に高齢者に多く、女性よりも男性の発症率が高いようです。当クリニックでもこの疾患で手術を受けた方がこれまでに5〜6名おられました。
原因は頭部打撲が8〜9割で、本人が憶えていない程の軽微な場合も多く、数週間から2〜3か月かけてじわじわ出血が起こります。肝機能障害(アルコール多飲者)や糖尿病、また脳梗塞や虚血性心疾患・不整脈などで血液をサラサラさせる薬を服用されている方の発症率が高くなっています。慢性硬膜下血腫は脳外科疾患になりますが、当クリニックではバイアスピリンなどの抗血小板剤やワーファリンを服用しておられる方も多く、注意が必要です。つい先だっても、80代の男性が自宅で階段を3〜4段踏み外し、頭部打撲の有無は不明瞭でしたが、数週間後に周囲の状況がわからなくなり、神経内科で慢性硬膜下血腫と診断され、手術を受けました。
症状
契機となる頭部外傷の直後は無症状か頭痛程度の症状しかないことが多く、病院を受診しない人がほとんどです。このあと数週間から2〜3か月かけて血腫がつくられて、頭蓋骨の内側の圧が高まり(頭蓋内圧亢進)、頭痛や吐き気・嘔吐が現れます。また、血腫による脳の圧迫症状として半身の麻痺(箸やコップを落とす、つまずきやすい、スリッパが脱げやすい、うまく歩けないなど)や言語障害などが初発症状のこともあります。
軽度の意識障害として、元気がなかったり、認知症状がみられたりすることがあります。血腫が増大していけば、意識障害が進行して昏睡状態や生命の危険な状態になる場合もあります。
診断
頭部CTスキャン撮影、頭部MRI撮影などで診断します。
治療
血腫が少量で症状が軽微な場合は自然吸収を期待して経過観察をすることもありますが、通常は局所麻酔で手術が行われます。慢性の血腫はさらさらした液状のため、大きく頭蓋骨を開けなくても小さな孔(あな)から取り除けるので、穿頭血腫除去術(せんとうけっしゅじょきょじゅつ)あるいは、穿頭血腫ドレナージ術が行われます。重症例を除けば、予後は良好で、1〜2週間以内で退院できます。
軽く頭をぶつけた後、しばらくして具合が悪くなったら医療機関に相談してください。
【看護師:竹内、長尾、速水、立石、阿部】