藍色の風 第29号目次
鉄欠乏性貧血
藍色の風28号では貧血の種類についてお伝えしました。今回は貧血のなかで最も頻度の多い『鉄欠乏性貧血』についてお伝えします。
鉄欠乏性貧血とは??
体内に酸素を運ぶ役割をしているヘモグロビンが減少すると、貧血が起こります。貧血にはいくつかの種類があり、そのなかでも、ヘモグロビンの主な成分である「鉄」が不足するために起こる貧血を『鉄欠乏性貧血』といいます。
鉄はどの位からだにあるの??
通常、成人男性は約50mg/kg、成人女性は約35〜40mg/kgの鉄を体内に持っています。そのうち、約65〜70%がヘモグロビン鉄としてヘモグロビン中にあり、約30%が貯蔵鉄(フェリチン)、残りはその他の鉄として微量に存在します。
体内の鉄はほとんどが再利用され、食事による吸収と、便・尿・汗などによる体外への排出は、それぞれ1日約1mgでバランスがとれています。女性の場合は、月経により個人差もありますが鉄の排出が1日に約1〜2mgとなります。
鉄欠乏になる原因は??
・食生活の乱れによる鉄不足
偏食やダイエットなどにより、食物からの鉄分摂取が不足します。
・成長期や妊娠期など鉄の需要増加
成長期や妊娠中は、通常よりも鉄分を多く必要とします。鉄分の摂取量よりも必要量の方が上回ってしまうため鉄が不足します。
・さまざまな原因の出血による鉄損失
消化管内などに出血があると少量であってもそれが長期間に渡れば、赤血球が減少し、再利用される鉄分を失うために貧血となってしまいます。女性の場合は、月経や月経過多を引き起こす子宮筋腫や子宮内膜症も鉄欠乏性貧血の原因となります。
・鉄の吸収阻害
消化器に異常がある場合(胃酸分泌の低下、胃切除後、ヘリコバクター・ピロリの感染など)には鉄の吸収が悪くなり鉄欠乏となります。
どのような症状があるの??
貧血の一般的症状(疲れやすい・動悸や息切れがする・顔色が悪い・頭痛やめまいがする…など)に加え、以下の鉄欠乏性貧血によくみられる症状があります。
・爪がもろくなる、爪が変形する(スプーン状に反りかえるなど)
・毛髪の質が悪くなる
・口角炎、口内炎、舌炎などになりやすい
・食べ物が飲みこみにくくなる ・・・など
貧血が徐々に進行するとからだが貧血状態に慣れてしまい、自覚症状がほとんどない場合があります。
どのような検査でわかるの??
一般的な貧血の検査として赤血球数・ヘモグロビン濃度・ヘマトクリット値を測定します。さらに鉄欠乏性貧血を診断するために血清鉄(Fe)・総鉄結合能(TIBC)・血清フェリチンなどを測定します。
鉄欠乏性貧血の場合、血清鉄(Fe)および血清フェリチンが低下します。 総鉄結合能(TIBC)は、その体内鉄の不足を補おうとする結果、増加します。(検査結果がすべてこのようになるとは限りません)
何らかの原因で鉄が不足すると、血液中の鉄量を一定に保つためにまず貯蔵鉄(フェリチン)でその不足分を補います。その結果、貯蔵鉄が減少します。貯蔵鉄で補えなくなると、血液中の鉄(血清鉄)が減少してしまいます。しかし、鉄が不足し始めたからといって、すぐに血液検査に異常があらわれるわけではありません。気になることがありましたら、医師にご相談ください。
参考文献:日本医師会雑誌第137巻・第6号
【臨床検査技師:宮原・田中】